気になるあの子はキョンシーでした

  • 気になるあの子はキョンシーでした 壱

    第一話

  • 気になるあの子はキョンシーでした 弐

     高専最寄駅の近くのファミレス。そこは俺らのたまり場だった。 任務終わりに傑と一緒に飯食ったり、試験前に硝子から勉強教えてもらったりと、店員に顔を覚えられる程度には通ってる。高専の近くで一番美味いのはこのチェーンだし、それほど混んでなくて長…

  • 気になるあの子はキョンシーでした 参

     黄昏時、って言葉がある。まだ松明で明かりを取ってた時代は日が暮れると人の顔が分からなくなった。誰だあれは―「誰そ彼」って聞くような時間帯だから黄昏時、って言うらしい。 今みたいに夕暮れ時の山道を一人で歩いてると、そんなことが頭をよぎる。任…

  • 気になるあの子はキョンシーでした 肆

     昼下がりの校庭に鈍い音が響き渡る。音の発生源にいるのは灰原とキョンシーだ。先ほどの音は灰原がキョンシーに投げ飛ばされた音だった。少し離れたところでは七海が家入の治療を受けている。キョンシーは灰原を助け起こすと家入の元へと連れて行った。「二…

  • 気になるあの子はキョンシーでした 伍

     結局、アイツの外出許可は取れなかった。 そもそも先生に根回しも断られたし、恒例のまどろっこしい問答すらしてもらえなかった。アイツ自身はこの結果を予想してたみたいで、「三人の気持ちが嬉しい」なんて言ってたけど、俺は納得できない。だっておかし…

  • 気になるあの子はキョンシーでした 陸

    「あ、五条さん、今日もお勤めご苦労様です!」 任務を終えて補助監督のところに戻ると、妙なテンションで出迎えられた。「なんすか、そのテンション」「いやー、さっき事務局の先輩から連絡があって、長期休暇貰えることになったんすよ」「……ソーデスカ」…

  • 気になるあの子はキョンシーでした 柒

     過労で遂に頭がおかしくなったか、と夏油は天を仰いだ。 高専の廊下を手が走っていった。足がないのに「走る」というのもおかしな話だが、五本の指を足のように使って器用に走っていったのである。このような芸当ができる人物に心当たりはあるものの、まだ…

  • 気になるあの子はキョンシーでした 捌

     あの時、俺が談話室に行こうと思ったのは本当に偶然だった。梅雨が明けた頃から本格的に忙しくなって、傑や硝子ともすれ違うことが増えた。繁忙期を抜けてやっと落ち着いたから、誰かしら談話室にいるんじゃないかと思って行ってみた。そしたらアイツが傑と…

  • 気になるあの子はキョンシーでした 玖

     夜のしじまに激しい息遣いの音が響く。 その音を発していたのはキョンシーだった。呪霊の体液で両手が毒々しい色に染まっている。周囲にはまだ数体の呪霊が身を潜め、彼女の出方を伺っていた。いつもの彼女であれば三十分もあれば全て祓ってしまえる程度の…

  • 気になるあの子はキョンシーでした 拾

     九番倉庫の七番棚の左端。そこが私の「食事」場所だった。 ここには防火扉が設置されていて、万が一、私が火の不始末をしても他の呪具に燃え移る心配はない。だからお香を焚くときは七番棚の左端で、という規則になっていた。七番棚のあたりは構造上、日の…

  • 気になるあの子はキョンシーでした 拾壱

    「オラ憂太! いつまで待たせんだ!!」 真希に呼ばれた憂太は小走りで皆のところへ向かった。折本里香の解呪に成功したはいいけど、四級からの再出発。ま、あの呪力量だし術式も良いもん持ってるからすぐに特級になるだろうけど。 後ろからカツカツとヒー…

  • 気になるあの子はキョンシーでした 番外編

     家に帰ってきたら、アイツが浴槽に沈んでいた。 もう死んでるから浴槽に沈んだところでどうってことはない。それでも沈んでるところを見たら心臓が止まりそうになった。「何してんだよ!」「ごばっ!」 アイツを浴槽から引っ張り上げて、タオルでつつんで…